【FPRC鼎談】ニューノーマル時代の「本質を問う力」(後編)


本シリーズではニューノーマル時代に必要なスキル「問題設定力」について、働き方(前編)、顧客への価値提供(中編)、そして知的労働者の役割(後編:本記事)の3つの観点から、FPRC研究員の議論をもとに考察する。

前回の記事では、まず非常時にも選ばれる商材の特徴として「(品質や在庫などが)確実であること」の価値を追求した事例を筆頭に、本質的な顧客体験価値を考える重要性が改めて増していること、また今後は自分のためだけではなく他人のための消費も増えるであろうという消費傾向の変化仮説を解説した。

後編となる今回は、新しい顧客体験価値を提供するにあたって、自社における個人の役割とはなにか、どのようにそれを果たすべきかを考えるための「問題設定力」について考察する。

新しいビジネスモデルを考える上での価値整理

新しい生活様式が定着するのに伴って、FPRC特別連載「アフターコロナ時代のビジネス戦略」でご紹介したキーワード「4つのY」に当てはまるサービス形態が増えている。例えば観光業では泊食分離を前提としたプランが登場したり、スポーツ・エンタメ業界では現地に移動できずとも有料のライブ配信で楽しめることが当たり前になりつつある。

早川:

スポーツやエンタメでは、緊急事態宣言の前後で一斉に無観客へシフトしたものの、少しずつリアルも回復してきた。ファンビジネスはコロナ禍の前に戻るのか、デジタルを取り込んで新しい方向へ向かうかの岐路に立たされている。

藤元:

エンタメ・スポーツビジネスの価値は①アーティスト・アスリート本人の価値②生み出されるコンテンツの価値③コンテクスト(場)の価値の3つに分けられる。
①はプライスレスなので、個々の選手や芸能人に直接投資できる機会は多いほうがいいし、これから増えるはずだ。
②については、視聴はオンラインでもいいという人が増えると予想される。そういうリーチは多いほうがよく、キャパシティや居住地に関係なく増やせる。
③の体験価値を今の技術ではカバーしきれない。場の雰囲気や体験価値をどこまで再現できるようになるかは未知数だ。少なくとも現時点では、①②のマネタイズ・ビジネスモデルがどんどん進められる。

早川:

旧来型のレコードビジネスが苦境であるだけで、アーティストの力が衰えているわけではない。

坂野:

逆に、アーティストにとっては機会が広がっている。

藤元:

ストリーミングサービスのおかげで、音楽にふれる機会は格段に増えている。わざわざお金を払って聴くつもりはなかった曲でも、ストリーミングであれば気軽に聴く。音楽に限らず、コンテンツ一つ一つに対する接触が確実に増えている。

①アーティスト・アスリート本人の価値は、中編で述べた「応援経済」にも直結する。また、上記の指摘の通り、コロナ禍を経て、コンサートや舞台の視聴は新たなステージに差し掛かっている。②コンテンツの価値の変化を掘り下げると、以前よりライブビューイングなどの取り組みは広がりつつあったが、そのような「大人数がリアルタイムに遠隔でコンテンツを共有し、盛り上がる」というスタイルが個人の自宅にまで浸透したとも捉えられる。

CCCマーケティング総合研究所の調査によると、オンラインライブ配信への期待に「気軽に楽しめそう」「会場の場所や会場への移動を気にしないでよい」という項目に回答者の半数ほどが同意している。感染リスクを抜きにしても、移動やチケット代といったハードルが下がるなど、オンラインで視聴できることの価値は確固としてあることが分かる。

いち視聴者としてではなく、個人で楽しむスポーツについても、デジタルを活用した新たなサービスが生まれている。

坂野:

最初からバーチャルなコンテクストをコンテンツにしたものが増えると考えている。遠隔でも自転車で一緒に走ることができる「ZWIFT」など。

参照:ZWIFT公式サイト

早川:

一方、ライブグッズはリアルなコンテクストがないと売れにくい。
坂野:ある程度リアルの感覚に近づけようと思うと、「公演に合わせた時間にしか販売しません」という策くらいしかない。

藤元:

地下アイドルの手売りがいい例で、たとえモノ自体は不要でも体験のために購買行動を取る。パッケージでしか稼げなかった工業化社会に比べると選択肢が格段に増えたので、この分野ではもっと面白い例が出てくると考えられる。

早川:

ジャニーズ事務所もパッケージ化されたモデルだったが、独立が増えている。ニジプロのように作る過程をコンテンツ化している例も出てきた。昭和型エンタメモデルがかなり崩れてきたことと無関係ではない。

藤元:

単にアーティストや芸能人を支配していた事務所は仕事がなくなっていく。これからはプロデュース力や企画力が試される。芸能人やクリエイターはその分、新しい稼ぎ方ができるようになる。

新しいサービス形態・ビジネスモデルによる新しい価値提供を考えるための「問題設定力」は、顧客の抱える問題の本質を見定めることだけに生かされるわけではない。
自社の商材の価値を見直し、その本質を探ることも、将来を見据えた新規事業や戦略を考える知的労働者には求められるようになる。

Photo by Marten Bjork on Unsplash

新規事業や戦略を考える上で必須の視点

本シリーズでは「問題設定力」をキーワードとしてきたが、それは「現状を俯瞰して課題を見つけ出す力」とは大きく異なる。

坂野:

「課題」と「問題」、「ソリューション」の切り分けを上手くやる必要がある。
藤元:今起きている・見えている課題は今やっていることの表れでしかない。それは未来ではない。将来起こりうる問題を考えることがこれからは重要になる。

現在の施策の延長線上にある「課題」は、短期的にはソリューションを導出して解決しなければならないことに変わりはない。

しかし、中編および上のエンタメの例で述べたように、新しい価値創出のためには「顧客の抱える問題」および「自社商材の価値」、それぞれの本質を見極めなければならない。
そして、そのためには現在の延長だけではなく、未来に起こりうることをベースとした視点が必要である。

FPRCが提唱している「バックキャスティング」のアプローチも、その視点をもって可能となる。現在の延長線上を時系列に沿って考える「フォアキャスティング」ではなく、まず未来のあるべき姿を描き、そこに至るまでのプロセスをさかのぼって、それぞれのスコープで取り組むべきことを考えるということである。

また「問題設定力」は、前編の記事でも述べたように、従来の教育システムの中で身につけることは難しい。そのようなスキルを磨くプログラムが求められることもビジネスチャンスの一つと言えるだろう。

2020年という節目の年に起こった一連の不可逆な変化は、既存のビジネスにアップデートを迫る決定打となったとともに、今あるサービスの本質的な価値を常に意識する必要があることを、あらゆる業界に携る人々に実感させた。このような非常事態が今後も起こりうることを念頭に、自社が果たすべき役割はなにか、そのために自分がどのように動くべきか、といった命題の最適解を探すことを忘れてはいけないのであろう。


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また、FPRCが発刊する「未来予測年表Monthly Report」では、日々のリサーチ活動で得た情報の中で、未来予測に関連した事柄をピックアップし、コメントを記載しています。また、レポート前半には、特に大きな動きのあった業界や技術トピックスについてまとめています。先月のトピックスの振り返りや、先10年のトレンドの把握にご利用いただける内容になっています。

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