【FPRC鼎談】ニューノーマル時代の「本質を問う力」(前編)

今年の4月から9月にかけて、FPRCでは「アフターコロナ時代のビジネス戦略」として、各業界ごとに、比較的短期目線で考えられる方向性について考察する記事を掲載しました。
ご覧いただいた皆さまに、編集委員として改めて御礼を申し上げます。

そして連載を終えた今、「アフターコロナ」から「ニューノーマル」へ、さらに先を見据えるにあたって必要な力とは何か、FPRC研究員の藤元・坂野・早川の3名で議論を交わしました。
その中で大きなテーマとなったのが、「問題設定力」です。
「問題設定力」は、常識を疑い、本質を問い直し、真に解決するべき問題を見つけ出すことのできる力を指します。
ニューノーマル時代には、この「問題設定力」が、特にホワイトカラーにとって重要になってくると考えられます。本シリーズではそこにスポットを当て、前編では「自身の働き方」、中編では「社外に向けて果たすべき役割」、後編では「知的労働者の役割」と、3つの観点から考察します。


働き方の変化によって会社と個人の関係性が変化する

2020年度も大半の企業で上期を終えたが、その間に起きた就業環境の激変は、多くの人にとって予測を超える激変だったのではないだろうか。
もともとテレワークやオンラインでのコミュニケーションは、パンデミック以前より広がりつつあった。それが一気に加速したきっかけが新型ウイルスの流行というのは皮肉であるが、いずれにしてもこの変化が不可逆であることを考慮すると、今後の社会にとって欠かせない要素であることは間違いない。

以下はその顕著さを示す調査結果である。

(内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(令和2年6月)より)

業種などによって大きく差は開いてしまっているものの、全体の3人に1人が既にテレワークを導入しており、またテレワークを経験した就業者の「今後も継続したい」という声は最も高い23区内で約72%にのぼる。
一度導入したツールやデジタルへ移行したシステムを導入前の状態に戻すことはよほどでない限り考えにくい以上、今後は「リモートでもできる仕事をオフィスで行う意味」が重要となる。
この数年でデジタルにおける顧客接点が増えていくにつれ、リアルの店舗の価値を問い直す機会も同様に増加していた。仕事におけるリアルの場であるオフィスについても、「なぜ行く意味があるのか」という問いから価値を洗い出し、再定義する必要があるだろう。
そのヒントについても議論を行った。

早川:

仕事の進め方が変わり、対面打ち合わせが減って楽になったのは事実。その反面、移動時間がないからといって連続でひたすら打ち合わせをすることが増えた。どこまでこのペースが続くか分からないが、これまでとは違う意味でハードだとは思う。

藤元:

空調・照明・ネットワーク環境・家具など、住宅に設備投資をする人も増えると予想される。これまでは睡眠のために帰るだけだった人も、長時間仕事をしても支障がない環境を整えなければならなくなる。

早川:

マンションの内装もオフィスの内装も、最低限ではなく好みに合わせるほうに向かっている。いかにリアルの空間として価値を発揮できるかが重要になる。

藤元:

淡路島に本社を移転する例があったが、もしかしたら、温泉地に本社を持ってきたりする動きもあるかもしれない。

業務自体はリモートで可能だとしても、ネットワークなどの整った環境はいわずもがな、人によっては「この組織に属している」という意識をオフィスによって強化されていた可能性がある、という指摘もあった。

藤元:

大企業のサラリーマンは勤め先に対して誇りを持っている事が多く、オフィスにいることで組織に属している実感を得られていたのではないかという仮説がある。リモートワークによって個が浮き彫りになることで、自己肯定感が下がる人もいるのではないか。

オフィスには物理的な環境の良さだけではなく、仕事のパフォーマンスには直接関係のない帰属意識にまで影響を及ぼす力があるのかもしれない。

ニューノーマル時代のホワイトカラーにとって重要なキーワードは「自己決定権」

近年のデジタル化やAI技術の発展によって、ホワイトカラーの人々を中心に業務内容の変化が示唆されてきた。それはつまり、形式だけの問題ではなく、真に人間が取り組むべき業務とはなにか、人間が発揮するべき価値とはなにかを問うことにほかならない。

坂野:

オンラインでのコミュニケーションが一般化し、一人ひとりの発言がコンテンツとしての力をどれだけ持てるか、かつ上手くまとめて手短にわかりやすく話せるかが全てになりつつある。でも、それだけではないはずだ。イノベーションも、そこからこぼれ落ちた中にネタがある気がする。

藤元:

会議そのものがビジネス化するかもしれない。ファシリテーターがより重要になる。また、会議の生産性が可視化されるであろうことを考慮すると、収集・編集・理解といったプロセスを参加者にきちんと踏ませるような、リアルタイムにダッシュボードを参照できるサービスも登場するとよい。

場所の制約がなくなったことで、会議を開くことに対するハードル自体は下がったかに思われるが、短時間で効率よく目的を果たすべきであることに変わりはない。参加者の理解を深め、議論をスムーズに進行させることはオフライン以上に難しいが、だからこそ、いっそ専門家に任せるという選択肢も、今後は珍しくなくなる可能性がある。

それでは、このシリーズのテーマである「問題設定力」は、働き方の変化にどう関わってくるのか。それを考えるにあたって、まずはこれまでの一般的な慣習に目を向けた。

早川:

企業側が大卒を求める理由に「自分で考えて動ける力が身についている」があったと思うが、今の大学にそれが身につくシステムはない。年齢的には大人として扱うはずなのに、コロナ禍ではキャンパスに通わせてもらえないように、大学側の管理統制が強い。

藤元:

キャンパスに通えない中で、例えば「こんな時期だから休学しよう」というような選択ができる人とそうでない人で差があったのではないか。自分に必要な環境を自力で整える裁量が昔はあったが、今は単位認定制度なども厳格になっており、学生にとってその余地がない。

坂野:

コロナ禍の大学生と同じで、企業の長期事業戦略も、問題設定能力の経験やスキルに欠けていると進められない。問題解決能力以上に設定が重要。

藤元:

ニューノーマル時代のホワイトカラーには、問題設定スキルを伸ばすプログラムが最も必要。課題はすぐに見つかるが、問題設定は難しい。しかし中長期的な視点では、課題発見以上に問題設定の必要がある。

自分にとって最適な環境を見極めても、現状を改善する裁量が与えられない中で働きかけることは難しい。しかし、コロナ禍を経て気付きを得ることのできた職場にはチャンスがあるはずだ。リモートワークにおいても、マネジメント側による過度な監視が報告される例もあるが、重要なのは働く側がこの機に自己管理能力を磨くことなのではないだろうか。

藤元:

自己決定権・自己管理が今後の重要なキーワード。自己肯定感をオフィスやキャンパスに通うことで補うことはできなくなる。

早川:

オーバーヘッドの見直し、副業のあり方も個人の経験値を伸ばす方向で認められるのではないか。

これからの業務や会議の評価において可視化はますます進み、精度も上がっていくと予想される。「働き方」は自分にとって最適な場所で、どのような仕事をするべきかを見極め、それを達成する確かな道を見出す。一方、「働かせ方」はそんな働き方の実現のために、既存の業務を根本から見直し本質的な改善点を探る。そうして新しく築かれた体制がニューノーマル時代のスタンダードになっていくのであろう。


【FPRC鼎談】ニューノーマル時代の「本質を問う力」(中編)は、11月中旬頃公開予定です。

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アフターコロナ時代のビジネス戦略

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