ヘルスケアのIoT化(先進IoTビジネスの動向|第4回)

はじめに

前回はファッション業界におけるIoTの動向について調べたが、今回は少し趣向を変えて、IoTヘルスケアについて考えていきたい。

ヘルスケアを考える上で筆者は「治療」を思いついた。治療という観点から患者と医師の関係性を図示すると、以下のようになるだろうか。

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まず、患者が様々な定性情報(痛みの自己申告や腫れなどの視覚的情報)や定量情報(体温などの客観的情報)を医師に提供する。それに対し、医師が自身の知識や経験を基に、診断を下し(現状分析)、治療を施す(解決策の提示)。医師を必要としない軽症の場合は同じ情報を基に自ら解決策を実行に移す(痛み止めの薬を飲む、など)。

しかし、よく考えてみると、もう一つ大切なものがある。それは「予防」である。例えば、ほとんどの人は、虫歯にならないように、毎日しっかりと歯磨きをしたり、様々な体調管理を心掛けたりする。

IoTは、ヘルスケアにおいて、「予防」と「治療」の両面から我々をサポートしてくれるようになる。その、IoTヘルスケアの流れを簡単に図示すると、以下のようになる。

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まず、患者とIoT製品の間に「予防」のサイクルが確立される。IoT製品が患者をモニターし、病気を未然に防いだり、軽い症状へ医療ガイダンスを行ったり、問題の大きい場合は医師に繋げたりすることができる。

これらに基づき、今回の事例紹介では次の三つに着目したい。

  1. 予防
  2. 予防→治療、予防+治療
  3. 治療

 

Kolibree

最初に紹介するのは、フランスに本部を置くKolibree社のスマート歯ブラシ。3Dモーションセンサーや加速度計付きの歯ブラシで、日々の歯磨きを細かくモニターしてくれる。専用のスマートフォンアプリが歯ブラシと連動し、正しい歯の磨き方と手順を指示してくれる。また、歯磨きと連動したゲームもできるので、子供たちは楽しく歯磨きをしながら歯磨きを学ぶことができる。さらに、ゲームに関しては、Kolibree社がAPIを公開しており、サードパーティーの開発参加を促している。

日々の歯磨きの指導で虫歯や歯周病を防ぐということは、1番の「予防」のサイクルに当てはまる。また子供の頃からの正しい歯磨きを習慣とするのは非常に健康的だと言える。歯ブラシからの絶え間ないフィードバックがいかに予防に役立つかよくわかる事例である。

 

Kinsa Smart Thermometer

次に紹介するのは、IT戦国時代のカリフォルニア発のKinsa社が開発したスマート体温計「Kinsa Smart Thermometer」。この体温計では、スマートフォンに接続し、測った体温を記録し、任意で症状を入力することでアプリによる診断が得られ、それを基にしたメディカルガイダンスを受けることができる。

また、位置情報に基づいて、近隣の病気の流行などを見ることもできる。つまり、多くの人がこのSmart Thermometerを使うことで、病気の情報が地域で共有され、医師の診断や注意喚起などに役立てられる。

 

CliniCloud

三番目に紹介するのは同じくカリフォルニア州のCliniCloud社の開発した、スマートフォンに繋がる体温計および聴診器。Kinsaと似ており、体温測定と聴診の結果をスマートフォンに表示し、クラウドに保存する。

では、CliniCloudの何が特別なのか?それは、オンデマンド医療サービスである「Doctor on Demand」と業務提携をし、自宅で体温計・聴診器を使って健康状態を測った後、さらに医師の診療が受けられる点。Doctor on Demandは、一回約¥4,000でスカイプのようなビデオ通話を通して医師と繋がることができる。またその医師の処方した薬を薬局で購入することもできる。このようなサービスによってヘルスケアは格段にアクセスしやすくなった。特に、病院が自宅から遠い場合や病院がいつも混雑している場合などに重宝しそうである。

この、CliniCloudとDoctor on Demandの提携こそが、予防から治療への橋渡しである。体温を測り、CliniCloudの指示に従って大きな病気は防ぎつつ、Doctor on Demandによって医師の診療を受けることができる。この医療の形態は、これからのヘルスケアを大きく変えていくのではないだろうか。(特に、国民皆保険ではないアメリカにとってはより安価な医療サービスの選択肢になり得る)

Chimaera

最後に紹介するのが、外科医をサポートする、神経刺激装置のインプラント用医療器具Chimaera。このインプラント手術は元々世界で数人程度しか行える人がいない高等な技術であり、この医療器具によってより多くの医師がインプラント手術を安全に行えるようになる。

これによって、装置の位置の周辺をリアルタイムに可視化され、グーグルグラスなどのウェアラブル端末に表示される。医師は装置の正確な位置を把握でき、他の神経や血管を傷つけずに目標場所に到達が可能。

センサーやカメラなどが小型化することで、ある意味デリケートな分野である医療にもIoTは進出し始めている。IoTが医師の医療行為を支援できれば、より安全な医療現場が生まれるのではないだろうか。

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(出典:http://www.cambridgeconsultants.com/)

今後

医療にIoTが進出することによるメリットは大きい。特に、IoTによる予防のサイクルや、Doctor on Demandなどのオンデマンドサービスは、在宅医療や遠隔診療を大きく前進させてくれるのではないだろうか。医師不足、医師の地域偏在問題、医療費の膨張など、医療に関する問題が山積している日本にとっては、少なからず朗報だと感じる。日本でも2015年、厚生労働省によって遠隔診療が事実上解禁され、制度的な側面での整備も着実に進んでいる。IoTヘルスケアの定着は医療費削減や医師の地域偏在問題の緩和に貢献するかもしれない。

このように、ヘルスケアのIoT化はビジネスとしてだけでなく、社会問題の解決としても重要であることが分かる。

(出典)
http://www.cambridgeconsultants.com/media/press-releases/new-surgical-experience-2
https://www.kolibree.com/en/
https://www.kinsahealth.com/
https://clinicloud.com/
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