先進IoTビジネスの動向|第2回「スポーツ分野におけるIoTの事例と動向」

2016年9月16日 | IoT, オピニオン

はじめに

2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されることを見越し、多くの企業がスポーツ分野においてIoTを活用するビジネスを模索している。アスリートの技術と戦略性を向上させる可能性を秘めたIoTは東京五輪に向けて重要な鍵であると考えられる。また、オリンピックというレベル以外でも、IoT技術を一般向けのスポーツビジネスに応用する機運が高まっている。

今回は、スポーツ分野でのIoTの動向について、いくつかの事例を基に見ていきたい。

第1回『IoTの概況』 ←前回
第2回『スポーツ分野におけるIoTの事例』 ←今回
第3回『ファッション分野におけるIoTの事例』
第4回『ヘルスケアのIoT化』
第5回『飲食におけるIoTの動向』
第6回『総括:IoTの今後の可能性』

 

Babolat Play

まず紹介するのは、フランスの老舗ラケットメーカーのバボラ社。センサーを搭載し、スマートフォンにつながるスマートなテニスラケット「Babolat Play」を2013年から欧米で販売を開始(日本では2014年から)。

Babolat Play racket and app

(出典:ja.babolatplay.com/

最大の特徴は、テニスラケットに埋め込まれた4つのセンサー(6軸センサー、加速度計、ジャイロスコープ、圧電素子)がプレイヤーのショットのテクニックやパワーを計測し、分析すること。例えば、打ったボールにかかったスピンの量、打球の速さ、そして打点の場所などを記録し、すぐに専用のスマートフォンアプリ上で教えてくれる。これらの機能により、自分の弱みを正確に把握し、重点的に練習することができる。また、これらの情報を蓄積し、自身の日々のスキルアップを記録したり、友人や世界中の他のユーザーと共有し、競争したりすることもできる。こうすることによって、ユーザーがモチベーションを上げつつ、楽しく競いながら練習することがバボラ社の狙いだ。

 

Zepp Labs

次に紹介するのは、アメリカ発の新鋭ベンチャーであるZepp Labs社。現在野球・ソフトボール・テニス・ゴルフ用のセンサーを開発・販売している。このセンサーを手やバット・ラケットに装着すると、センサーが選手のショットやスイングの正確性やスピードを計測し、多角的に分析、専用のスマートフォンアプリ上で可視化してくれる。特に、選手のショット・スイングを3Dで分析し、あらゆる角度から検証できる点が特徴的。

Zepp Labs

(出典:www.zepp.com/

全般的に機能性はバボラ社のものと似ているが、Zeppの違いはセンサーが取り外し式であること。したがって、自由に好きなバットやラケットに装着して使用できる。実際にアメリカでは、コーチが大学やプロレベルでこのセンサーを用い、指導に役立てているそうだ。

現在Zepp Labsはハードウェアの売上が主な収益源だが、今後はデータを活用したバーチャルなコーチングのサービスを展開することを予定している。

 

PlaySight Tennis

三番目に紹介するのはイスラエルのPlaySight社。男子世界ランク一位(2016年6月現在)のノバク・ジョコビッチ選手が出資したことでも知られるこのPlaySight社は、スマートコートを世界各地で提供している。このスマートコートにはビデオカメラが複数設置され、それらが選手やボールの動きを撮影・記録し、分析する。またコート横のキオスク端末でリアルタイムにデータ(球の速さ・回転、走行距離、消費カロリー、あらゆる視点からのプレイ映像など)を参照できる。このスマートコートの技術は、元々イスラエル空軍に所属していたメンバーが創業し、空軍戦闘機の操縦士のトレーニングに使われる3D視覚化技術を応用したものだというから驚きだ。

PlaySight Tennis

(出典:www.playsight.com/#/

2015年から日本でもサービスが開始され、まずは千葉県柏市の(公財)吉田記念テニス研修センターに導入された。これからテニスを理論とデータによって指導する考えが広まることが期待されている。

しかし、このスマートコートが普及するにはコスト面での難しさがある。設置費などの初期費用が約200万円、毎月の維持費が10万円程度になるようで、これらのコストをすべてカバーできる施設は多くない。現実的には、Babolat PlayやZeppの小型センサーの方が普及しやすい印象だ。ただ、プロレベルの選手を育成・強化するような施設ならば、このような大規模な投資も可能だろう。

 

ベビーバスケ

四番目に紹介するのは、日本発の世界ゆるスポーツ協会が生み出した、従来のスポーツとは真逆の方向性を持った、バスケットボールの派生競技である「ベビーバスケ」。この競技では、センサーを搭載した特殊なバスケットボールを用い、選手が激しくボールを動かしすぎると、センサーに呼応してボールが「泣き出して」しまう。よって、選手はボールを優しく扱わなければならず、ベビーバスケは非常に「ゆるい」競技だと言える。

ベビーバスケの興味深いところは、年齢・性別・運動神経に関係なく、誰もが楽しめるスポーツである点。また、それを他とは異なるテクノロジーの使い方によって実現している点。このように、新たな技術によってより多くの人がスポーツを楽しめるようになり、スポーツに多様性がもたらされることは、とても有意義だと感じる。また高齢化社会の日本においてはビジネスチャンスでもあるだろう。

 

Levi’s Stadium

最後に紹介するのはプロのアメリカンフットボールチームであるサンフランシスコ49ers。2014年からLevi’s Stadiumというハイテクなスタジアムをオープン。シリコンバレーの真ん中に本拠地を据える49ersがIT企業と協同で、インターネットにつながるスタジアムを完成させた。

7万人以上の使用に耐えるWi-Fi設備を完備し、ワイヤレス通信を通して様々なコンテンツを試合中に配信している。例えば、家のテレビで試合を観戦しているようにリプレイ動画や中継映像を受信したり、リアルタイムで試合のデータを見たりすることができる。さらには席に座ったまま食べ物や飲み物を注文できる。

(出典:https://itunes.apple.com/)

(出典:itunes.apple.com/

これらのコンテンツによって、観客はスタジアム観戦の「ライブ感」を楽しみつつ、リアルタイムでより詳細な情報を得ることができる。よって、Levi’s Stadiumはスポーツ観戦のエンターテインメント性を極限まで高めていると言える。

 

今後

ここまで、簡単にスポーツ分野でのIoT活用事例について取り上げたが、これからどう拡大・浸透していくのかについて少し考えたい。

IoTの市場は現在急速に拡大しているが、スポーツ分野も例外ではない。技術的観点と娯楽的観点と両方のベクトルで進んでいくと考えられる。技術的な側面に関しては、各種センサー類が高性能化・小型化・低価格化し、様々な商品に搭載するハードルがますます下がり、また東京五輪を見据えた選手強化に活用しようという流れが出始めている。例えば、富士通は日本体操協会と協同で3Dセンサー技術を利用して体操選手の動きを詳細に分析する手法を開発している。また、娯楽的な側面に関しては、スポーツ観戦におけるハイテク化と同時に、ソーシャル的繫がりを利用してバーチャル上で楽しく他人と競争する方向や、「ゆるスポーツ」のようにスポーツ参加の敷居を下げる方向でIoT化が進んでいくのではないだろうか。

さらに、特に一般向けの「スポーツxIoT」ビジネスにおいて、ビジネスモデルの変革が考えられる。これまではモノを販売して終わりというビジネスモデルが主流であったが、今後、IoTの広がりとともに、事業者と顧客の関係が継続していくようなビジネスモデルが増えてくるのではないか。いわゆるサブスクリプション型のモデルで、スポ―ツ分野では例えば月額制でよりパーソナライズされたレベルの高い指導が受けられる、など。

最後に、スポーツ分野にIoTが浸透すると、部活動などの一般向けの指導にも変化が訪れると考えている。まず、技術が簡単に可視化されることで一般レベルでの指導の理論化・科学化が進んでいくのではないだろうか。また、指導の理論化に伴い、「勘」や「体罰」などの“伝統的”でかつ保守的な指導が益々通用しなくなり、淘汰されていくと考えられる。特に、数年前に高校バスケ部の部員の自殺が問題になったように、日本のスポーツ界では体罰などの暴力的かつ精神論的な指導が未だに蔓延っている。この現状を鑑みると、スポーツのIoT化は技術向上以外でも大きな意義を持つ。

次回は、第3回『ファッション分野におけるIoTの事例』を掲載予定(近日公開)

シリーズへのリンクはこちら

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第2回『スポーツ分野におけるIoTの事例』 ←今回
第3回『ファッション分野におけるIoTの事例』
第4回『ヘルスケアのIoT化』
第5回『飲食におけるIoTの動向』
第6回『総括:IoTの今後の可能性』

(出典)
山田雄大(2014)「ハイテクラケット「バボラプレイ」の実力」東洋経済ONLINE
Tim Bajarin(2014)「Meet Levi’s Stadium, the Most High-Tech Sports Venue Yet

 

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